名古屋高等裁判所 昭和40年(ネ)700号 判決 1965年12月23日
理由
当裁判所の判断によるも、被控訴人の請求は、原判決の認容する限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却を免れないものと考える。その理由は、左記の外、原判決の説示するとおりであるから、その理由記載を引用する。
控訴人らの当審における主張は、すでに原判決において理由のないことが判断せられているが、さらに、その理由を補足する。
株式会社の取締役が破産宣告を受けたときは当然にその取締役たる地位を喪失することは商法第二五四条第三項、民法第六五三条に明定するところである。その理由は受任者の破産宣告によつてこれに対する信任関係が失われたものと推定されるからである。民法第六五三条の解釈として受任者が破産しても委任は終了しない旨の特約の有効なりとせられるのもその故にほかならない。しかるに本件被控訴会社の代表取締役である皆川明は破産宣告を受けた後、再び取締役に選任せられたものであることは、控訴人らも争つていない。ところで、破産者が取締役の被選資格を欠くものかどうかについては、法律上これを否定した明文はなく、また右の民法第六五三条も叙上のような意味における委任者の意思推定規定に過ぎないし、現行商法もこの委任に関する規定を準用するにとどまつていることからみると、その趣旨はむしろ取締役についてはなんら被選資格を定めず広くこれが人材を求めしめようとするにあるものと解されるから、破産者でも株主総会において適材として取締役に選任せられた場合は、新たな委任関係によつて取締役に就任しうるものといわねばならない。したがつてまた、取締役会においてその者を代表取締役に選任した場合には、代表取締役にも就任しうることはいうまでもない。してみると、皆川明が被控訴会社の代表取締役として提起した本件訴訟は適法であつて、控訴人らの右主張は到底採用することができない。
以上の次第で原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないからこれを棄却……。